普段デスクワーク中心の仕事をする職員さんにとって、いきなり本番の塗装をはじめることは、あらゆる混乱をまねいて予定通りに進まなくなるのはだいたい想像できました。市役所が休みの土日の2日間で工事を終わらせる都合があります。
通常の職人がおこなう仕事であれば、面積からおおよそ何人の職人が必要ということは、計算することはできますが、職員さんが相手ではまったく想像がつきません。
最初に担当職員さんから、塗装をする廊下を見せてもらったときは、長い2フロア分の廊下と天井、さらに細かい扉の枠なので正直80人ぐらいは必要かなとも思っていました。日数が限られていなければ、そこまでの人数を確保する必要はありませんが、予想がつかなければ多いに越したことはありません。
何しろ、指導するのは私たちです。何人かけて2日 間で終わらせるというのは、市役所側よりもこちらのほうが専門でなければいけません。それでも、職員さん一人頭がどの程度の仕事をこなすことができるのかが、本当にまったく予想できないので、プレッシャーは募るばかりでした。
結局、担当職員さんと何回か打ち合わせる中で、試し塗りをしてみようということになりました。
長さ75メートルの廊下を、約4ブロックに分けて、そのうちの1ブロック を試し塗りです。
そこで、塗装する職員さんを募集することになりました。
私たちの要望としては、本番の塗装にリーダーとなる人員にしてほしいという要望をしました。
そうすれば本番工事のときに、試し塗りを一通り終えた職員さんが、ほかの職員さんにすこしでも教えられることができるからです。
試し塗りの日に指導、補助をする職人は、代表の私、川口、菊池、曽根カズでした。菊池は写真撮影取りでしたので、実際に職員さんに指導していたのは、3人だけです。
職員さんは6人。驚いたのは、そのうち若い女性2人がいたことです。
詳しくは聞いていませんが、率先して試し塗りに手を挙げたのだと思います。しかも、休日を返上してまで。
とにかく、試し塗りに参加した職員さんは、服装もすべて自前です。汚れてもいいものを着てきてくださいと言っても、そうそう捨てられるものがあるのでしょうか。
自分たちの職場は自分たちできれいにするという、思いが伝わってきました。
材料を運んで準備をしている途中、職員さんは塗装の際に邪魔になるものを取り外します。
その後は、作業の説明です。
下地調整、刷毛やローラーの使い方、塗り方、養生の仕方を一通りレクチャーしてスタートです。
まず床の養生からです。
ロール状ブルーシートを職員さんが敷いていきます。
なかなか、手際がいいです。
塗料がついてはいけない場所は、すべてビニールとテープを使って養生をします。
今度は下地調整。鉄部と木部塗装をする前の研磨作業です。
たわし状なもので研磨すると、塗装がはがれにくくなって長持ちするという下地調整の重要さを説明してから実際に行って見せて、今度は職員さんの番です。同様に扉の木部も。
それから研磨粉をそうじして取り払い、鉄扉と扉の木枠の下塗りです。
鉄扉はさび止め塗料、木枠の塗料は下塗りと上塗り塗料同じものです。
これも実際にハケとローラーを使って塗り方を説明してから、職員さんの番です。
扉の木枠は天井近くまで高さがあるため、脚立に上っての仕事になります。
女性の職員さんも脚立に上って一生懸命塗装している後姿が、いい意味での違和感があって、さらに懸命さがうかがえてきました。
最初は、試し塗りにはリーダー的な職員さんが希望ということでしたので、全員男性の職員さんが集まると思っていましたので、女性で大丈夫かなという思いがあったのは事実ですが、実際にやってみるとひとつひとつの作業を丁寧にこなしていたので、結果的に後で手直しする部分が少なかったです。
鉄部と木部の下塗りを乾燥させた後は、面積の大きい壁と天井の塗装です。ローラーでは入りきらない場所は刷毛で、ほかの部分をローラーで塗っていきます。
天井は届かないので、ローラーに柄を付けての塗装です。今回の塗装の中では、一番大変な作業なのが、この天井の塗装です。上を見ながら塗装しなければなりませんので、肩や首に負担がかかるからです。
実際、天井をほとんど一日担当していた職員さんは、後日筋肉痛になったと言っていました。
ここで扉の木枠、鉄扉、壁、天井の「下塗り」が終了です。途中、昼食の休憩をはさみひとやすみです。
厳密にいえば、下塗りがすべて終わってから昼休みというタイミングで終わったわけではありませんが、その続きです。
今度は、木枠、鉄扉の上塗りをする前に、壁の上塗りの仕上げをしてしまいます。下塗り同様、細かい場所は刷毛で塗りながら、ローラーで仕上げています。一般の家の外壁塗装の場合、中塗りと上塗りを変えて塗装する場合もあります。色を変えることによって、きちんと重ね塗りができているか確認できますし、上塗りの塗り残しもなくなります。
今回の場合は、中塗りも上塗りも同じ色です。家の外壁とちがって、壁がつるっとした平面のため、色を変えて塗ると上塗りがうまく塗れないと、中塗りの色が透けてみえる可能性があるからです。
これは少し技術が必要な部分なので、中塗りと上塗りは同じ色にしました。そのためか、各自はけを持ってバラバラに塗装すると、誰がどこを上塗りしたかわからなくなって少し混乱してしまったのが課題として残りました。
試し塗りとはいえ、この1ブロックは完全に仕上げなければなりません。時間をみると、定時の五時までとても終わりそうにない状況が明らかになってきました。
午前中から、曽根、川口、カズと職員さんに教えながら、自分たちも塗りを手伝っていましたが、時間的に余裕がないと判断してからは本格的に仕事をはじめました。
途中、会社の仕事のため、菊池とカズが抜けたため、曽根と川口も指導から塗りへ没頭しスパートをかけていきました。
全体を見回すと、それぞれ職員さんの特徴が出てきます。
じっくり丁寧に仕事をする人もいれば、シャカシャカとローラーを一生懸命に上下させて塗る人、柄のついたローラーで常に上を向いて塗る人。
職人であれば、塗り方や動きがみためで明らかにわかるほど、違いはありませんが、塗装をしたことのない職員さんの動きの違いの差が明らかなのが、印象的でした。
壁の仕上がりを残し、途中から木枠の上塗りです。木枠の上塗りは下塗りと同じ色、同じ塗料ですが、細かい部分なのでより丁寧さが必要な部分でもあります。
時間をじっくりかけ、ここは問題なく塗装されていきます。壁と天井も仕上がり、鉄部の上塗りも仕上げていきます。
途中、鉄扉のローラー仕上げの際、ローラーを素早く転がした影響で、予想外の範囲まで塗料が飛び散ってしまった点と、仕上がりからも下塗りに塗ったさび止め塗料の白色が透けて見えてしまった部分の手直しで、時間はかかりましたが、完成へと着々と進めていきました。
養生をすべてはがし完成です。
家の塗装でもそうですが、養生をどんなに完璧にしても、塗料の拭き掃除は必ず残ります。
床付近についてしまった塗料を、カッターなどで削り取りながら、最終チェックです。
若干の塗り残しの手直しを終え、片づけて終了です。職員さんたちは、自分たちで塗った廊下を見て感激していた様子でした。
今回の試し塗りは、塗装自体をだいぶ手伝うことになりましたが、途中本当に終わるのかどうか、ハラハラドキドキ感もありましたが、無事午後七時ごろに終了できて、私たちも一安心です。
この試し塗りで課題が見つかったため、本番の塗装ではそれを生かすことができます。もし、この試し塗りをしなかったとしたら、本番はかなり混乱していたと思います。